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仙台地方裁判所 昭和61年(ワ)52号 判決 1987年11月24日

原告 株式会社 三善材木店

右代表者代表取締役 小泉勝彌

右訴訟代理人弁護士 氏家和男

被告 丸星木材株式会社

右代表者代表取締役 星和夫

<ほか二名>

右被告三名訴訟代理人弁護士 大嶺庫

被告 星功

右訴訟代理人弁護士 園部伯光

主文

一  被告丸星木材株式会社は原告に対し金一三八七万五四一六円及びこれに対する昭和六一年二月一三日から支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二  被告星和夫、同星節子は、原告に対し各自金九七一万二七九一円及びこれに対する昭和六一年二月四日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告の被告星和夫及び同星節子に対するその余の請求、並びに被告星功に対する請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告と被告丸星木材株式会社との間においては全部同被告会社の負担とし、原告と被告星和夫及び同星節子との間においてはこれを三分しその二を同被告両名の負担としその余を原告の負担とし、原告と被告星功との間においては全部原告の負担とする。

五  この判決第一、二項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し各自金一三八七万五四一六円及びこれに対する被告丸星木材株式会社(以下「被告会社」という。)については昭和六一年二月一三日から、被告星和夫、同星節子、同星功については同月四日から、それぞれ支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、製材業を主たる目的とする会社であり、被告会社は、木材の製材及び販売を主たる目的とする株式会社である。被告星和夫は被告会社の代表取締役、被告星節子及び同星功はいずれも被告会社の取締役である。

2  原告は、昭和六〇年七月一〇日から同月二二日にかけ、被告会社に対し、輸入原木を代金総額金一三八七万五四一六円で売渡した(以下「本件売買」という。)。被告会社は右代金を左記のとおり支払う旨約して約束手形三通を振出交付したが、いずれの満期分についても支払がなされないまま今日に至っている。

昭和六〇年一〇月三一日限り 金三八七万五四一六円

同年一一月三〇日限り 金五〇〇万円

同年一二月三一日限り 金五〇〇万円

3(一)  被告会社の代表取締役星和夫は、昭和六〇年三月ころ、原告会社の従業員平野儀一に対し、被告会社を閉鎖すると伝え、原告と被告会社との取引は同月二〇日以降行なわれていなかった。ところが、被告和夫は、同年七月初めに、前記平野に対して、被告会社を再開することになったので、再び原木を購入したいと申し入れ、その際、被告会社は外材輸入組合に木材購入の申込をしているので、それが届くまでの「つなぎ」として原告から原木を購入したいと述べた。そのため平野は、被告和夫の右言葉を信用して、原告にその旨伝え、原告としては、外材輸入組合から被告会社に木材が入れば、それの売却代金により、原告に対する支払もなされるものと考えて、被告会社との間に本件売買が成立した。

しかるに、その後の調査によると、被告会社は、同年四月一〇日以後は外材輸入組合に木材購入の申込をしていないことが判明した。また原告が被告会社から購入申込を受けた原木は、当初、トラック四台分であったが、その後原告が原木を引渡す段階になって追加購入申込が相次ぎ、結果的にはトラック一二台分の原木を前記のとおり騙取されたものである。原告としては、当初のトラック四台分の購入申込は被告会社との従前の取引量の範囲内でもあり、かつ外材輸入組合から木材が入るまでの「つなぎ」ということであったので、被告和夫の言葉を信用して取引を再開したのであったが、当初から原木の購入申込数量がトラック一二台分ということであれば、従来の一回の取引量の三ないし四倍の大きさであり、その購入申込をそのまま受け入れることはなかった。

被告会社は、原告から前記原木を買受けた直後の同年八月初めころから債務の整理に入り営業を廃止した。被告会社の負債総額は五億円を下らないと言われており、また被告和夫も、被告会社は同年五月の決算期に一億数千万円の赤字を抱えていたと述べている。被告会社はその債務整理のため同年八月に入り工場敷地を売却し、その上の建物も取り壊した。また、被告和夫、同節子は同年一〇月末ころから行方をくらました。

以上のように、原告と被告会社との間の本件売買は、被告会社の危機状態において、違法な詐欺ないし詐欺的手段を用いてなされたものであり、その違法性は極めて大きい。これらの事情からすると、被告和夫は、被告会社代表取締役として、原告との間で本件売買契約を締結するに際し、当初から被告会社において代金支払の意思も能力もなく、原告に代金の取立不能という結果を招来することにつき悪意があったにもかかわらず、原告から本件原木を購入したことは明らかであり、また少なくとも同被告には右契約締結に際し重過失があった。したがって被告和夫はその職務を行うにつき悪意又は重大な過失があったから、商法二六六条の三第一項により第三者たる原告に対し損害賠償責任がある。

(二) 被告星節子は、被告会社の取締役であり、夫である被告会社代表取締役星和夫と共に、被告会社が原告から本件原木を購入するにつき関与している。しかも前記追加申込については深く関わっていて、原告会社の平野からの支払能力についての問合せに対し、自ら大丈夫である旨述べて同人を信用させている。

これらの点と(一)で述べたことを併せて総合的に判断すると、被告節子は、被告和夫と本件不法行為を共同して行ったものとして、被告和夫と同様に、商法二六六条の三第一項の損害賠償責任がある。

仮にそうでないとしても、被告節子は、被告会社の取締役として、会社のために忠実に職務を遂行する義務を負うにもかかわらず、重大な過失により右義務に違反し、被告和夫の前記不法行為を知りながら、これを防止するどころかそのような行為を助成して、取締役として監督権発動に必要な処置をとらなかったものであり、前同様、商法二六六条の三第一項の損害賠償責任がある。

(三) 被告星功は被告会社の取締役であり、実兄である代表取締役星和夫に対し、被告会社の整理や閉鎖を進言したり、工場敷地建物の売却にも関与し、また昭和六一年二月ころには自ら星和夫に対して破産申立をするなど被告会社の内情に深く通じながら、被告会社の経営を星和夫のなすままに任せ、取締役会の開催を求めるなどの行為を全くしていない。

被告功は、被告和夫や同節子の前記のような不法行為を知り又は容易に知り得べきであったのに、重大な過失により被告会社の取締役としての忠実義務に違反し、被告和夫らの前記不法行為を看過して監督権発動に必要な処置をとらなかった。したがって、被告功は、被告和夫と同様に、商法二六六条の三第一項の損害賠償責任がある。

(四) 原告は、前記被告ら三名がその職務を行うにつき悪意又は重大な過失があったため、被告会社との間に本件売買契約を締結したが、代金取立が不能となったため、代金相当額である金一三八七万五四一六円の損害を被った。

4  よって、原告は、被告会社に対しては売掛代金として、被告星和夫、同星節子、同星功に対しては商法二六六条の三第一項による損害賠償として、各自金一三八七万五四一六円及びこれに対して被告会社については訴状送達日の翌日である昭和六一年二月一三日から、被告和夫、同節子、同功については同じく同月四日から支払ずみに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告会社、被告星和夫、同星節子)

1  請求原因1項は認める。

2  同2項につき、被告会社及び被告和夫は認め、同節子は不知。

3  同3項は否認する。被告会社が原告に対し原木の注文をした昭和六〇年七月初め当時、被告会社は経営困難であったが倒産必至の状態ではなかった。被告会社は本件売買代金の支払方法として、従前の取引のとおり、先日付の約束手形を振出したもので、振出当時はその支払をする考えであり、原告に損害を与える悪意はなかった。被告和夫は被告会社が原告に対し負担する本件約束手形金を弁済するため、和夫個人所有の福島県いわき市田人町旅人字明神石一番六、地目山林、地積一八万八四二九平方メートル(以下「本件山林」という。)を売却処分しその代金により決済しようと奔走した。その代金は一億五〇〇〇万円と予定していたが、希望通りに売れず結局九五〇〇万円で売却せざるを得なくなり、この金額は抵当権者の弁済に充当されて残金がなくなり原告への支払いはできなかった。なお被告和夫と同節子は逃亡したのではない。また被告会社の運営は代表取締役であった被告和夫一人がその衝に当り取締役会を開いたことはなかった。

4  同4項は争う。

(被告星功)

1  請求原因1項のうち、被告功が被告会社の取締役であることは否認し、その余は認める。

2  同2項は不知。

3  同3項中、被告会社が現に廃業し、工場敷地(但し、被告和夫の個人資産)を売却し、建物も取り壊していること及び被告和夫、同節子が昭和六一年一一月末(一〇月末でない。)ころから行方をくらましていることは認め、その余は不知ないし否認する。本件売買は被告会社の日常業務であり、仮に被告功が被告会社の取締役であったとしても担当の取締役でないから、本件売買代金の支払がないことにつき責任はない。本件原木の買入は被告会社の日常業務であり、右は会社の営業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をなす権限を有する代表取締役の職務であり、取締役会の権限ではないのであるから、仮に被告功が取締役であったとしても、被告和夫から本件売買について相談を受けていないのであるから被告功が責に任ずるいわれはない。

被告功は星和夫の弟であり、被告会社の営業を廃止し工場敷地などを売却する計画を和夫が有していたことは知っていたが、営業の廃止は本件売買とは関係なく行なわれたものであり、また被告功は本件原木の買入については何も知らなかった。仮に被告功が取締役であったとしても、本件原木の買入を取締役会を開催するなどして阻止することは時間の関係でも到底不可能であり、被告功に本件売買につき責任はない。

4  同4項は争う。

第三証拠《省略》

理由

(被告会社に対する請求について)

請求原因1、2項の各事実は当事者間に争いがない。そうすると、被告会社は原告に対し、本件売買代金一三八七万五四一六円及びこれに対する被告会社への本件訴状送達日の翌日であることが記録上明らかな昭和六一年二月一三日から支払ずみに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。したがって原告の被告会社に対する本訴請求は全て正当である。

(その余の被告らに対する請求について)

一  請求原因1項の事実は原告と被告和夫、同節子との間に争いがなく、同項のうち、被告功が被告会社の取締役であることを除く事実は原告と被告功との間に争いがなく、同2項の事実は原告と被告和夫との間に争いがなく、同3項のうち、被告会社が現に廃業し、工場敷地を売却し建物を取り壊していること及び被告和夫、同節子が昭和六一年一一月末ころから行方をくらましていることは原告と被告功との間に争いがない。

二  《証拠省略》によると、次の事実を認めることができる。

1  被告会社は、木材の製材及び販売、木材製品の加工及び販売、一般建築材の販売等を目的として昭和四六年六月三〇日に設立された。被告会社は代表取締役である被告和夫が会社経営の実権を握りその経営を行ってきたが、昭和五八年ころから赤字が続き、昭和六〇年五月の決算期においては負債総額が一億数千万円にのぼり、経営内容は悪化していた。被告和夫は、同年三月ころに、原告会社の営業を担当していた平野儀一に対し被告会社の営業をやめると伝え、同月二〇日以降、原告と被告会社との取引は行われていなかった。ところが同年七月初めに、被告和夫は平野に対し被告会社の営業を再開すると話し、従前の取引と同じく、トラック四台分の原木購入を申込んできた。平野は、被告会社が一旦はその営業を止めたものと考えていたため、被告会社の支払能力に不安を感じ、右購入の申込に直ちに応じなかった。しかるに被告和夫は、外材輸入組合に原木の購入を申込んであるのでそれが届くまでの「つなぎ」として原木を売って欲しい、原告には迷惑をかけない旨、言葉巧みに平野に申し向けて同人を安心させ、被告会社と原告との間に本件売買契約を成立させて同年七月一〇日にはトラック四台分の原木を購入し、さらにその後三回の追加申込を行ない、結局同月一〇日から二二日までに合計トラック一二台分の原木を原告から買受け、その代金合計は金一三八七万五四一六円に及んだ。なお原告と被告会社間の従前の取引内容は一回につき金三〇〇万円程度であった。

そして原告から購入した原木は被告会社において製品化して、経費をプラスしきれないぐらいの単価で販売し、その代金は被告会社の他の手形決済資金に回された。しかしその後判明したところによると、昭和六〇年四月一五日以降、被告会社が外材輸入組合に原木購入の申込みをした事実はなかった。

2  被告和夫は、同年七月ころには債務整理のため同被告が所有する被告会社の工場敷地の売却を準備し、同年八月初めころには右工場敷地を売却し、同月中ごろには同建物を取り壊した。しかし資金繰りがつかず、本件売買代金の支払いのために振出された約束手形三通のうち、満期が同年一〇月三一日分が不渡りとなった。そのため、被告和夫は同被告個人所有の本件山林を同年一一月一三日付で金九五〇〇万円で売却したが、右売却代金は本件山林に設定されていた抵当権の被担保債権の弁済に全て充てられてしまい、原告に対し本件売買代金の支払はなされなかった。

被告会社は同年一一月末日に、本件売買につき満期が同日付の手形につき二回目の不渡りを出して事実上倒産したが、被告和夫は右倒産の直前にはすでに出奔していた。なお同被告は同年一〇月、一一月に二、三回心臓発作を起こし同年一一月には静岡県大仁町の病院に入院したが、当時、被告功を始め被告会社債権者である原告にはその所在を一切明らかにしていなかった。

以上の各事実を認めることができ(る。)《証拠判断省略》

三  そこで、まず被告星和夫が本件売買につき、商法二六六条の三第一項にいう悪意又は重大な過失があったかどうかについて検討する。

前項で認定した事実を総合すると、被告会社が本件売買をなした昭和六〇年七月当時には、被告会社はすでに慢性的な債務超過の状態にあり、被告和夫は被告会社の営業を廃止して債務整理のため工場敷地を売却する準備をしていたが、被告会社の他の手形決済資金を入手するため、原告に対し、真実は外材輸入組合に木材購入の申込をしてなく、営業を継続する意思がないのに、同組合に購入申込をしているのでそれまでの「つなぎ」として原告から原木を購入したいと虚構の事実を申し向けて、それを信頼して確実に代金の支払がなされると考えた原告と本件売買契約を締結し本件原木の販売を受けたものと認めることができる。

被告和夫の右言動は、本件事実関係の下においては、通常の商取引において許容される駆引の限度を越えており、同被告の詐欺的言動により本件売買契約が成立したものと認めることができる。なお、被告和夫は同被告個人所有の本件山林を金一億五〇〇〇万円で売却することにより本件売買代金につき完済の目途があったと主張しその旨供述しているが、現実には、本件山林は金九五〇〇万円で売却され、右売却代金により同山林が負担する抵当権の被担保債権が弁済できたに過ぎなかったものであるが、他方、本件山林が当時金一億五〇〇〇万円で売却できた客観的可能性は立証されておらず、同被告の右主張は採用できない。

これらによると、被告和夫は本件売買に関し、被告会社代表取締役としての職務の執行につき、少なくとも重過失があったといえるから、被告和夫は商法二六六条の三第一項に基づき、本件売買により原告が被った損害を賠償する責任がある。なお被告和夫らは、被告会社と原告との取引は昭和五五年以来六年間、合計約八〇回に及んでいて買受代金総額は約二億三〇〇〇万円であり、本件売買による手形を除いてはその代金は全て完済されていて、本件売買においても原告に損害を与える悪意はなかったと主張するが、右事実が認められるとしても前記認定を左右するものではない。

四  次に被告星節子が本件売買につき、商法二六六条の三第一項にいう悪意又は重大な過失があったかどうかについて検討する。

前記各証拠によると、被告節子は、昭和六〇年七月ころ、本件売買に不安を持った前記平野からの問合せに対して「外材輸入組合から木材が入るまでの間だから迷惑はかけない。」等と答えており、夫である被告和夫と共に平野を安心させて本件売買をなしていること、及び夫和夫の出奔後である同年一二月ころには被告節子も出奔し、以後、静岡県大仁町で入院中の夫和夫の許にいたもので、被告功や原告に対し、夫和夫と同様に所在を明らかにしていなかったことが認められる。

これらの事実及び前記認定の事実、特に外材輸入組合には当時、被告会社から購入申込がなされていなかったことを総合考慮すると、被告節子が被告会社の経営にどの程度関与していたかは証拠上必ずしも明らかでないが、少なくとも被告節子は本件売買が、被告会社の営業の廃止直前に、代金を支払える見込みがないのに、夫である和夫と共に原告の担当者平野に対し詐欺的言辞を用いることにより成立したことを十分に認識していたことが認められる。

ところで、株式会社の取締役は会社に対し、取締役会に上程された事項のみならず、代表取締役の業務執行の全般についてこれを監視し、必要があれば代表取締役に対し取締役会を通じて業務の執行が適正に行われるようにすべき任務・職責を負うものであって、本件において仮に被告節子が日常の業務に携わらない名目的な取締役であったとしても、右義務を免れうるものではない。そして前記認定によると、被告節子は被告会社代表取締役である星和夫が適正に業務を執行するように監督する義務を果たしておらず、本件売買に積極的に加担したものであるから、その任務懈怠につき少なくとも重過失があったと認められる。そして被告節子が右義務を尽くせば、本件売買を阻止することも不可能でなかったといえるのであって、同被告の任務懈怠と原告の損害発生との間に相当因果関係が存すると認められる。したがって被告節子は、商法二六六条の三第一項に基づき、本件売買により原告が被った損害を賠償する責任がある。

五  被告星功は被告会社の取締役であることを否認しているのでまずこの点について検討する。

前記各証拠によると、被告功が昭和五六年七月三一日に被告会社の取締役として重任している旨の登記がなされているが、被告会社は、被告和夫が経営の実権を握り経営を行なっていて、これまで取締役会を開いたことはなく、したがって、被告功が被告会社から取締役会の招集通知を受けたことはなく、また同社から報酬をもらったこともない事実が認められる。

しかしながら、他方、《証拠省略》によると、被告和夫、同功の実父である星初太郎は、当初は木材業を主力にして建設業、ガソリンスタンドなどを経営し、昭和三一年に建設業を有限会社にしてからは建設業を主力として経営を行なっていたこと、被告会社は、星初太郎が代表者をしていた個人経営の丸星商店を前身として昭和四六年六月三〇日に設立され、設立当時の代表取締役は星初太郎であったが、同人の死亡後、被告和夫が代表取締役に就任したこと、訴外丸星工業株式会社(以下「丸星工業」という。)は、被告会社の設立とほぼ同時期である昭和四六年七月二九日に設立され、昭和五六年一一月一日付で、代表取締役として被告和夫が、取締役として被告功が、監査役として被告節子がそれぞれ就任登記されていること、丸星工業は実質的には被告功が専務取締役として経営の実権を握っていて、被告会社と同様、これまで取締役会は開かれていなかったこと、丸星工業は土木建築設計施行管理、土木建築資材の販売、宅地造成並びに建売住宅の販売等を目的とし、従前、被告会社から材料を仕入れていたこと、そのため被告功は年に二、三度、被告会社へ、材料のでき具合を見るためや役所の検査の立会のため行っていたこと、被告功は、被告会社が東邦銀行を通じて林業信用基金から融資を受けるにつき数回にわたり保証していたこと、被告会社と丸星工業とは、その設立以来の経緯や登記簿上、同じく兄の星和夫が代表取締役に、弟の星功が取締役に就任していたので、金融機関などからは両社一体のものとして見られていて、丸星工業も被告会社倒産後の昭和六〇年一二月一六日に事実上倒産したこと、両社の事務所は道路を隔てて約三〇メートルの距離にあったこと、被告功は昭和五八、九年ころから、被告和夫より被告会社は月に約五〇〇万円の赤字を出していて経営状態が悪化していると聞いて知っており、昭和六〇年八月には被告和夫に対し、被告会社を継続すべきでなく、工場敷地をすぐに売却するよう進言し、同月行なわれた被告会社の工場敷地売買における引渡検査には、被告和夫の代わりに立会ったこと、右工場敷地売却後は、丸星工業の敷地内に被告会社の仮事務所があったこと、その後、被告功は被告和夫個人に対し破産申立を行ったことをそれぞれ認めることができる。《証拠判断省略》

これらの事実及び被告功を除く被告ら三名は、被告功が被告会社の取締役であることを認めていることを総合すると、被告功は被告会社の取締役に就任していたものと認めるのが相当である。仮に右事実が認められないとしても少なくとも被告功は自己が被告会社の取締役として登記されることにつき故意又は過失により承諾を与えていたものと認めることができるから、被告功は商法一四条の類推適用により善意の第三者である原告に対しては自己が取締役でないことをもって対抗することはできず、取締役としての責任を負うものと解すべきである。

六  そこで被告星功が本件売買につき、商法二六六条の三第一項にいう悪意又は重大な過失があったかどうかについて検討する。

前記各証拠によると、被告功は被告会社の経営には関与しておらず、昭和四六年の丸星工業の設立以来、給料、役員報酬は同社から受け取り、被告会社からは受け取っていないこと、被告功は被告会社への出資はしていないこと、本件売買がなされたことも知らなかったことがそれぞれ認められる。

ところで、被告功は被告会社の名目的取締役に過ぎなかったとはいえ取締役として、代表取締役である星和夫が適正に業務を執行するよう監督すべき職責を有するところ、本件売買に関し、なんらなすところがなかったのであるから、取締役として任務懈怠があったといわざるを得ない。しかしながら、本件各証拠によっても、右に認定した事情の下では、被告功が、本件売買につき自己の職責を果たさなかったことについて、商法二六六条の三第一項に規定する悪意又は重大な過失があったとまでの立証は尽くされていない。

したがって原告の被告功に対する本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく失当である。

七  原告の損害額につき検討する。

《証拠省略》によると、本件売買の際振出された手形はいずれも不渡りとなり、その結果、原告は売買代金相当額である金一三八七万五四一六円の損害を被ったことが認められる。

ところで、前記各証拠によると、原告の担当者平野は、昭和六〇年三月ころ、被告和夫から被告会社の営業を廃止すると聞いていたにも拘らず、同年七月に至り、被告和夫らから外材輸入組合に木材購入の申込をしていて、それが届くまでの「つなぎ」として原木を購入したい、迷惑はかけないと申し向けられ、同被告らの右言動を信じることにより、原告は被告会社の信用状態を十分に調査することなく、また人的・物的担保を確保することなく本件売買契約を締結し、さらに追加注文に応じて、その結果、前記損害を被った事情が認められるのであって、右損害発生については原告にも過失があったものと認められる。したがって損害の公平負担の見地から本件においては、前記損害額の三割を過失相殺するのが相当である。なお本件においては、被告らから原告の過失が主張されていないが、証拠上その過失が認められれば職権で過失相殺をなし得ると解すべきである。

そうすると、原告が商法二六六条の三第一項に基づき被告和夫、同節子に対して求める本訴請求は、前記損害額金一三八七万五四一六円の七割である金九七一万二七九一円及びこれに対する本件訴状送達日の翌日であることが記録上明らかな昭和六一年二月四日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当であるが、その余は失当である。なお、原告は右損害につき商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めているが、右損害賠償債務は商行為によって生じた債務ではないから、これに対する遅延損害金は民事法定利率によるべきである。

(結論)

以上のとおりであるから、原告の被告会社に対する請求は全て理由があるから認容し、被告星和夫、同星節子に対する各請求は主文第二項の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、被告星功に対する請求は全て理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 水谷正俊)

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